「サッカーを斬る!」
千野圭一 著(前週刊サッカーマガジン編集長)

中田英は復帰するのか? 彼はどこで使われるのか?

 中田英寿が日本代表の試合に最後に出場したのは、昨年3月のシンガポール戦になる。次の代表の試合は3月25日のイラン戦だから、1年の空白を持つことに なる。

 負傷による欠場ということで、とりあえず完治するまでは無理をすることはないだろうとされてきたが、すでにイタリアでプレーを再開しているにもかかわらず、代表に召集されないのはやはり不可解だ。

 中田英が最後にプレーしたシンガポール戦は、代表そのものの出来が非常に悪く、その前のオマーン戦から続いたもやもやを引きずり、チーム状態はさらに悪化した。

 中田英は声を荒げ、その表情からも分かるくらいに苛立ちを募らせていた。試合後のインタビューでは露骨に不満を口にし、危機感を煽った。中田英は、チーム全体にワールドカップ予選を戦う気迫に欠けていることを危惧し、チームメートを鼓舞していたのだが、これが逆効果となって表れていた。

 代表チームは、4月下旬と5月に2度に渡って欧州でキャンプを張り、試合を行なった。4月の遠征ではハンガリー戦の後、中田英を含む数人がチェコで合流したが、中田英は負傷が完治しておらず、ユニホームに袖を通すこともなかった。そしてチームから姿を消した。

 2度に渡る欧州遠征は、大きな変革となった。中田英がチームを離れたこと、そしてシステムを3−5−2に変えたこと。この二つは関連性を持っている。

 ジーコ監督は、中田英が欠かせない選手であることを理解しつつ、中村俊輔も大事な選手であることの認識を持っていた。この二人を同時にピッチに立たせるためには、チーム構成上4−4−2のシステムが理想だった。

 ところが4バックでは守りのバランスが悪い。改善させるには3バックの採用が絶対的な選択肢だったが、これでは中盤の人材を持て余すことになる。踏ん切りがつかなかったジーコ監督を動かしたのは、中田英の離脱だった。

 欧州組が参加した5月末からのイングランド・キャンプ、そして2つの国際試合では、小野、稲本、中村の中盤が構成され、イングランド代表との対戦ではこれまでにないハーモニーを奏でた。

 稲本がこのイングランド戦で骨折し、小野も加わらなかったアジアカップでは中村を軸とした中盤の構成で日本は大会に連覇した。1次予選のその後の試合では大事なところで小野を加え、強敵と警戒したオマーンとのアウエーゲームにも勝利して、最初の関門をくぐり抜けた。

 その間、中田英の必要性は問われたが、大きく叫ばれることはなかった。中田英の実力を疑っている人は少ないと思う。多くの人が、最終予選になれば中田の力が必要になると唱える。特に97年にワールドカップ予選を戦っていること、イタリアで長い年月をプレーしている彼の“経験”を口にする人は圧倒的だ。

 しかし、中田英を迎えるためには現実に即した決断をする必要がある。一つは、彼を迎え入れるポジションを決定すること。もう一つは、彼が昨年何度も見せた苛立ちを抑えられるのか、だ。

 一番目の問題は重要だ。3月25日のイラン戦には小野も中村も、多分、稲本も加わるはずだ。守備的な中盤の選手としては福西も遠藤も中田浩もいるし、攻撃的なポジションには小笠原もいる。その中で、中田英のためにどのポジションを用意するのか。

 これは単に試合のためにチームを構成する以上の重みを持った決断になる可能性がある。というのは、中田英を加えるために、再びシステムを4−4−2に変更するとしたら、大きなギャンブルになるからだ。

 中田英の存在は、語られている通り大きなものがある。技術、戦術、強い精神力、肉体など、中田英が持っている能力は計り知れず、彼が同じピッチに立つことで得られる安心感も大きい。

 しかし、ピッチのどこに立たせるかで、チームの力がマイナスに作用する不安があるとすれば、必要性は希薄になりかねない。

 今、攻撃的MFのポジションで誰を選択するのかを冷静に判断するとすれば、真っ先に中村の名前が挙がる。中田不在のこの1年、中村が果たしてきた役割、貢献は大きく、確固たるものがある。ならば、中田のポジションの選択肢は限られる。

 一つは守備的なMF。そしてもう一つは3−5−2の右アウトサイド。どちらも中田英の力を発揮するには支障のないポジションではあるが、彼自身が納得するかは別の問題だ。

 中田英の復帰と彼をどこで使うかについては結果論では済まされない問題だ。仮に中村のポジションで起用し、結果が得られたとしても、それで良かったというわけにはいかない。なぜなら、中村にも実力と実績があるし、彼はこの1年、中田英がいなかったチームを支えてきた主役だからだ。

 中田英は間違いなく、日本代表に必要な選手だ。しかし、いくつかの問題があったとしたら、それを無視してまで使うだけの絶対的な選手なのだろうか。今や、中村にしても、小野にしても、稲本にしても大勝負に臨むにあたって、それほど気弱な選手ではないと思っている。